さて、先日国内で行われたRMEのイベントで、これからはAVBに注力するという発言があったとのこと。Music Messe 2018でDigiface AVBとDigiface Danteの両方が発表されたので平行で扱うのかと思ったら、基本AVB注力なのね。
ある意味非常に理屈臭い会社なので個人的には「やっぱり」という感じなのだが、これでAudio-Over-NetworkはAVBが本命となったと個人的には思われるので、ここでAVB/TSNについてちょっと書いてみますかね、と。
♯Digiface Danteは「既存の(「純正品」の)PCIeカードが色々酷いので自分達でもっとマシなもの作った」とかいういろんな意味でアレな発言がRMEの幹部からあったとか無かったとか。
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まず、AVBとはAVBとは Audio/Video Bridging、TSNとはTime Sensitve Networkの略。
で、TSNというのは別のオーディオやビデオに限らず名前通り「遅延時間が短く、且つ一定内に保障されないと困る」用途向けの規格。なのでこの上で運ぶものは別にオーディオとかビデオに限られず何でも良いワケなのだが、この仕組みの上でオーディオ・ビデオを乗せる標準規格をAVBという。
なので、AVB/TSNというのが本来的には正しいと思われるのだが、長ったらしいので最近ではAVBとだけ言う人が多いですな。AVB/TSNの旗手であったMOTUですら最近はAVBとしか書いていないし(初期は、AVB/TSNと書いていた)、ここでも以降AVBと書いたらAVB/TSNの略、ということにします。
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で、次はTSNの仕組みについて。
この仕組み、詳しく見ると結構複雑なので、色々すっ飛ばして簡略化して説明しまっせ。
通常使われるイーサネットは「送ったもの勝ち、早く辿り着いたもの勝ち」という設計なので、ネットワーク全体がガラ空きならまぁ特に問題にならない一方で、混雑してきたら帯域の取り合いになるのであっという間に流れ方がガタガタになります。余程のことがない限り「届かない」ということにはならないのですが、不均一な遅延が発生することは間違いない。
一方でオーディオストリームのようなものは、常に均等に流れ続けてもらわないと困るワケです。音が飛んでしまいますわな。それなら対策として(ASIOのバッファサイズを増やすように)大容量のキャッシュバッファを付けてやればというと、取り敢えず音飛びにはかなり耐性はつきますが、今度はキャッシュバッファに貯める分の遅延が問題になる。ネットワーク経由だからって10秒前の音しか聞けません、では使い物にならないワケです。
それではTSNではどうするか。
ものすごく簡単に言ってしまうと、TSNではネットワーク全体が時刻同期して、周期的に特定の予約された機器間でのデータ通信のみを行うことによって、データが最低の遅延時間で間違いなく到達することを保証しています。
要するに、ネットワーク全体を時分割多重して使うワケです。ケータイなんかと一緒、みんなで一緒に使っているつもりが、細かい時間単位で見るともの凄い勢いで切り替わりまくっているという。速いもの・強いもの勝ちで弱者は遅れるor潰されるだけだったイーサネットの世界に、革命的変化ですよコレ。
それでは従来のイーサネットとの互換性はどうやって取っているのかというと、答えは簡単で、「周期的」な時間以外は従来通りの速いもの・強いもの勝ちで転送しているだけ。
つまり、TSNネットワーク上で普通のデータ転送をやると、周期的に転送が一時停止するワケですな。なので、TSNネットワークで経路予約しまくると相対的に普通のデータ転送がどんどん遅くなるんですな。
ちなみに技術的に見ると、TSNネットワークではその中のどれかの機器が「ネットワーク構成コントローラー」として指示を出し、他の機器がそいつの言う通りにしてみんなで協調して動く、的な実装になっています。
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さて、そんな「イーサネットの常識」を覆したTSNなんですが。
問題はこの「ネットワーク全体の時刻同期」「特定の経路の予約」「周期的にデータ転送」といった諸々の実装はなかなかに面倒臭い&難しいこと。
この難しさはそのまま価格に跳ね返るワケで、現状では対応ハードウェアのお値段がイマイチお高いトコで止まってしまっているのも、数が出ていないということだけでなくこういう理由もあるんですわ。
とはいえ、元々このTSNという仕組み、インダストリアル用途や車内通信(CANなんて言う)を睨んで開発された、オープン且つ標準化された規格。上手いこと波に乗れれば乗用車という音楽制作業界とはケタ違いのパイの大きさを持つ商品の構成部品の一部となるため、大量生産によるコスト低下が十分に見込める・・・だろうと。
更に、実はTSNというのはTCP/IPでなくても使えたり。上記した通り、TSNが保証するのは「エンドポイント(=機器)間で確実にデータ転送を行う」だけなので、別にIPプロトコルでデータ流さなくてもいいのよね、と。
なので、必要に応じてIPより簡単だったりお好みの手法でデータを送ることも出来るんですわ。要するに、ネットワーク側で面倒なことを全部背負い込んだ代わりに、データを送受信する側から見るとその分ラクが出来る規格なのね。
実際、先ほど書いた「インダストリアル用途」だとTCP/IPじゃないデータ転送が主流になるという見方もあったりするワケでして。この辺りの(データを送受信したいだけの側から見た場合の)使い勝手の良さも、よく考えられているんですな。
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以上、確かに現時点ではちょいとお高いし、且つRMEは結局ソフトウェアスタック部分をほぼ手組みする羽目になったなんて噂もあるが、将来性はバッチリ、な筈、のAVB。
MOTU、Presonusに続いてRMEと強力なプレイヤーが参入し、これからも要注目ですよ、という話でした。
それでは、本日はこの辺りで。