※予告しておきますが、この記事にはS.Kazの個人的嗜好によって成り立っております。
さて、LTO7の実製品の登場が2015年中にはほぼ絶望的になり、個人的にも超ガッカリな状況なので、ここで日本では極少数派のテープメディア信奉者から、テープメディアがいかに現代のニーズとマッチしており、優れたメディアかということを力説してみようかと。
ということで、普通の人はどん引きかも知れないが、所詮個人blogなので言いたい放題ということで。
なお、S.Kazの言うことが信用ならんという人は、JEITA(電子情報技術産業協会)が作った資料がテープストレージ入門として非常に出来が良いので、これを読むべし。
テープストレージ動向 -2013年版- ←JEITAのサイトよりpdfへリンク
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まず、テープメディア信奉者としてもテープが万能であるとは思っていない。ここは誤解しないでいただきたい。
が、現在のデータの爆発的増加の中では、テープの特性が最大限活きる場面が増えている、ということだけは間違いない。
では、そのテープの特性が最大限活きる場面とは何かというと、これは「バックアップ」と「アーカイブ」です。
これらのデータの保存、「静的保存」にはテープが最強と言い切ります、当方は。
ではその「バックアップ」そして「アーカイブ」とは何か。
「バックアップ」はまぁ説明不要だろうが、「アーカイブ」については少し説明をば。
今時、大量のデータを個人でも抱える時代。その大量のデータを相手にするデータセンタの類では、桁の違う大量のデータを抱えることに。
が、このデータのうち、保存されると同時に直ちに読み出される可能性の高いデータは、うまく分類さえ出来れば実は大した量では無い。とある調査ではデータセンタが抱える全データ量のうち、7割は「直ちに取り出される可能性は非常に低いが、保存しておかないといざという時に困る」データだとか。
♯これでも控えめな数字で、別の調査によると95%なんて話も。
このような「直ちに取り出される可能性の低いデータ」は一般に「コールド・データ」と呼ばれ(逆に、すぐに取り出される・書き換えられる部分は「ホット・データ」と言う)、量が多いだけに保存コストが大問題となる。
この場合のコストというのは一元的にはおカネ的な話だが、そのおカネがかかる元ネタを探すと、例えば土地代だったり電気代だったり、媒体そのものの購入費用だったりするワケで。
で、このような「コールド・データ」の保存即ち「静的保存」に、テープメディアは最強なワケですな。
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では、次に何故テープメディアが静的保存に最強か、ということを書いてみましょうか。
1. テープは安い。
エンタープライズクラスの信頼性を求めると、容量単価ではっきり言って勝負以前。テープの方が圧倒的に安い。
特にLTO6では2.5TBの媒体が¥8,000程度で入手可能で、容量単価で見れば「信頼性って何ですか」なデスクトップHDDともいい勝負という。
こんなに価格が違うのは、テープの構造が極めて簡単だから。
メカ的な要素の殆どをテープドライブ側に持たせているので、媒体としてのテープは構造簡単&低価格に出来るワケ。
片やHDDアーカイブでは全てのHDDドライブにモータやヘッドといったメカ的要素満載のため、必然的に構造が複雑で且つ高価になる。
♯昔はこのテープとHDDのイイトコ取りを狙った「リムーバブルHDD」という製品もあったが、今時のHDDはメカが繊細過ぎてこんな手荒な手法は使えない。というか当時から「リムーバブルHDD」というと価格は高く信頼性が低く、ヒットという程売れた製品は結局存在せず。
もちろんテープドライブ自体LTO6では最安値でも¥40万ぐらい、ライブラリとなると¥100万からという話になるが、テープ自体が安価なのでトータルコストで見ると全く問題にならないレベル。
というかHDDも実際使う為にストレージアレイ(装置)を買う必要があるので、これも正直安くない。
2. テープはエコ。
テープが安いのは構造自体が簡単だから。
そして当たり前だが、テープメディア自体の保存には電力は不要。まぁ棚や金庫の類は欲しいかも知れないが。
もちろん長期保存では時々テープのリテンションやエラーチェック作業か必要になり、テープデッキが電力を消費するワケだが、それでも常時通電中のHDDと比べると話にならない。
一方のHDDはというと、最近でこそ一部HDDを停止させるようなシステムも出てきてはいるが、基本的にはHDDは通電しておく必要がある。理由は複数あるが、HDDは起動・停止のタイミングで故障する可能性が高いとか、通電しておかないとHDD自体のバックグラウンド処理が起動しないとか、システム自体がHDD常時稼働を前提に設計されているとか。
まぁ要するに、普通におウチでやっている「書き込んだHDDをオフラインで保存する」という発想はエンタープライズでは通用しません、はい。
3. テープはタフ。
LTO媒体を例に取ると、おおよそ500回のフルアクセスをメーカー保証値にしていることが多い。つまり、寿命という言い方をすると2.5TB×500回=1.25PBとなる。
方やニアラインHDDはというと、年間書き込み量が保証値では180TBとかその辺りに設定されているものが多い。これにメーカー保証期間である5年を掛けると、寿命は0.9PBとなる。
てなワケで、保証の範囲内で使うのが大前提のエンタープライズ世界では、普通に寿命を考えるだけでもテープは優秀なんですな。
え、保存寿命?もちろん長いでっせ。
LTOならば媒体メーカーですら「10年で入れ替えてね」と言っている、つまり保存目的なら10年は大丈夫という意味。更に、メーカーの媒体実物保存試験では既に20年を超える実績値がある。
その上に、磁気テープはHDDに比べ災害に強い。ケースに入っているので衝撃にも強いし(だからってラフに扱わない方がいいに決まっているが)、丁度読み書き中でもない限りは地震程度の振動でダメになることもない。更に、いざとなればケースから取り出してテープだけを丁寧に洗浄しデータを取り出す、なんて手法も使える。
#HDDもプラッタを取り外して洗浄後読み出す最終手段はあるにはあるが、テープの方が遙かに成功率が高い。それはヘッド等の物理的な危険物が同一ケース内に無いことに加え、テープの記録密度がHDDより段違いに低いからで、詳細は後述。
4. テープは速い。
LTO6では無圧縮でも160MB/S、2.5TBのテープを4時間半で駆け抜ける。
勿論、IBMやOracleが売っている大規模エンタープライズ向け製品だと更に速い。
一方、HDDアーカイブで使われているニアラインHDDでは、最近漸く1プラッタ1TB品が使われるようになったレベル。デスクトップ向けHDDで御存知の通り、1プラッタ1TBでは初速こそ200MB/Sを超えるものの、終端では100MB/S近辺まで落ちてしまう。
ということで、テープが遅いというイメージは完全に勘違いであるのですよ、はい。
5.テープはコンパクト。
物理的サイズを見比べれば一目瞭然。
LTOテープの体積は231立方cm、3.5インチHDDの物理サイズは379立方cm。
小さいでしょ。
そしてLTO-6は無圧縮で2.5TB、LTO-7は無圧縮で6.4TB(予定)。
3.5インチHDDの現在のニアラインは6TB。
ぱっと見だいぶ差がありそうにも見えるが、体積比で割ると3.6TB相当ということで、実はそこまで離されてるワケでもないんですな。
・・・だから早いとこLTO-7を商品化してくれと。
6.テープは売れている。
事実、テープメディアの出荷容量はどんどん伸びている。
この辺りはJEITAやJDSFの資料でも確認出来るし、テープメディア専門でトラックしている調査などでも確認出来る。
まぁ勿論、短期的には上下の波があったのは事実だが、トレンドという意味では上がり調子は間違いない。
7.テープは将来性がある。
このblogでも何度か取り上げているが、従来型HDDは既に容量限界が見えている。製品化の目処が立ってない実験室レベルの話でも、現在の7~8倍の記録密度までしか実証出来ていない。
片やテープはというと、実験室レベルでは現在の60倍の記録密度、LTOカートリッジ1本で154TB超相当の記録再生に既に成功しており、まだまだ伸びしろがある。
この理由は至極簡単で、LTOのテープというのは引っ張り出すと800m以上の長さがあるので、記録に使える面積という意味ではHDDとは格が違うということ。
更にその面積の広さのおかげで、HDDと比べると記録密度は2桁も違う=密度が低く、その分余裕がある。
その上、密度が低いので記録ヘッドもHDDではとっくに見かけなくなった旧式のものを使っていたりする。逆に言うと、記録密度を上げたければ現在のHDDと同じ方式のヘッドを採用するだけでもだいぶ違うということ。
♯何しろ現在市販されているテープ1本で2.5TBの容量のあるLTO-6ですら、1ビットは物理的にHDDの1ビットの300倍以上大きい。
ちなみにこのテープの高密度記録技術を現在主に引っ張っているのはあの富士フイルムで、今や独走状態に近い。
そしてLTOのロードマップが昨年9月に第10世代(48TB@巻♯無圧縮)まで伸びたのも富士フイルム(とIBMの)実証成功があったからこそで、更にはそれまでのロードマップでは第8世代(12.8TB@巻♯無圧縮)が最後となっていたのも、同じく富士フイルム(&IBM)が2010年に35TB相当の実証に成功しているからという。
#テープといえばSONYも技術を持っているし、実験室レベルの研究成果出してはいるが、実証や製品化という話では富士フイルムにだいぶ後れを取っていると思う。
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以上7項目、テープの優位性をくどくどと書いてきましたが、要するに。
テープなめんな
お後がよろしいようで(どこがだ)。