AMDのプラットフォーム戦略を考えてみる。(Trinity Review おまけ)

 さて、Trinityのレビューが終わったついでに、AMDプラットフォーム戦略を考えてみる。

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 まず、現状分析から。

 新プラットフォームであるFM2の上で第二世代APUであるデスクトップ版Trinityを走らせ、IntelのIvyBridgeに対抗しようというのがAMDの戦略。

 まあAMDが現在持てる体力出来ることは精一杯やっている印象はあるが、既に限界も見えているのが厳しいところ。
 それは「CPUアップグレードパス」が存在しないこと。
 これがAMD APUのOEM(メーカ製PC)採用にブレーキをかける一因にもなっている。

 何より、もうすぐ出てくる第二世代FXシリーズがAM3+だということが厳しい。
 だが、これは現在のAMDにとってそうせざるを得ない理由があってのこと。
 サーバ向けのG34/C32にはPiledriverをさっさと投入しないと話にもならない。そうなるとバスはHyperTransportになるので、基本コアが共通なFXもバスはHTとなり、PCI-Expressしか出ていないFM2にはどう頑張っても乗せようがない。

 勿論、以前Socket C2012/G2012と呼ばれていた次世代になれば、AMDもCPU側にPCI-Express IFを突っ込むことになるので、FM2にもFXシリーズの純粋なCPUが来ることが期待出来る・・・筈だった。そして同時にAM3+は漸くプラットフォームとして終了する、筈だった。
 ついでに、この世代では構造的にPCI-ExpressとHTと両方を持つことになるので(AMDにとってのHTはIntelにとってのQPI)、現行G34/C32/AM3+ソケットにも「最後の製品」として出して、それが世代間の橋渡しになる、筈だった。

 #昔どっかで出ていた「FM2+」ってのは恐らくFM2にPCI-Express 3.0と高TDP対応を突っ込むモノだったのではないか・・・と推測。APUしか無いFM2で高TDP対応ってのはマザーボードのコスト的にも許されないだろうが、単品CPUが来るなら許されるので。

 が、C2012/G2012は既に「無かったこと」に。DDR4への移行がズレこんでいるのも理由だろうが、兎に角、パフォーマンス向けコアへのPCI-Express Bridge統合は当分無くなった。
 結果、FM2への単品CPU投入も、AM3+の打ち切りも、当分無くなった。

 こんな状態で、AMDはTrinity一本のFM2で持ち堪えられるのか。いや、ムリだと思う。

 #しかしサーバ市場でのPCI-Express 3.0対応はどうするんだろ・・・新ノースブリッジ作るしか無いんだが。
  サーバ向けは兎も角、デスクトップAM3+向けに新ノース投入なんてやった日には、いよいよ以て誰もマザー作ってくれない気しかしない。

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 というワケで、当方が思う現状打破の切り札は

 「AMDデスクトップAPU・CPUの、早急なFM2プラットフォームへの統一とAM3+廃止」

 新しくダイを起こすのが無理なら、FXコアとNorthBridgeの両方をMCMで載せてでも、プラットフォームを統一すべき。
 何しろ、現在のAMDにはデスクトップ向けでAM3+とFM2という2つのプラットフォームを維持するだけの体力は無い。
 共倒れという最悪の結果になる前に、早急に決断すべきと思われる。

 こうしてAMDデスクトッププラットフォームがFM2で統一されれば、メーカPCでも採用例の増加が期待出来る。
 APUを積もうがCPUを積もうがマザーが1種類で良いので、同一マザーでもAPU・CPU性能で製品バリエーションを増やすことが出来る。この柔軟性はOEMには評価される筈。

 同じことは自作PC市場でも言える。
 現状では最上位APUのCPU性能に満足出来なくなった場合、プラットフォームごと変更する必要があり、これがFM2プラットフォームを評価する際にマイナス要素になってしまっている。
 だがここに十分な性能の単品CPU+十分な性能の単品GPUというアップグレードパスが存在すれば、構成の柔軟性が評価されるし、購入者がも安心してFM2プラットフォームを選択出来る。

 更に、マザーボードメーカーもソケットが1種類しか無ければ少品種大量生産によるコストメリット等を得易くなる。

 まあこういうことをするなら、150Wぐらいは喰わせられてPCI-Express 3.0対応な「FM2+」規格を本気で作るしか無さそうだが、それがFM2と互換性を持つなら市場もそんなに混乱せず移行するのでは。

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 まあ兎に角、AMDの状況は現状でも決して良くない上に、来年になれば更に厳しい状況が待っている。
 それは、Intelの次世代CPU、Haswell。

 Intelとしては久々の大改良モデルで、実IPCでも対IvyBridge比で10%程度は改善してくることが予想される。
 これは主としてCPUコアの強化によるもので、要するにシングルスレッド性能向上の為の重装備化をIntelは更に進めるということですな。
 対するAMDはPiledriver。シングルスレッド性能と従来型命令MIXでの処理効率を犠牲にしてまでダイ面積を削ったコアですよ。

 この時点でも、IntelがAPUの実装や思想に追いついてくることはないし、GPUとしての処理性能でもAMD側の方が優位なことは変わらない筈。
 が、CPU性能ではIntelが圧倒してくる。ダブルスコアとは考えたくないが、圧倒的な差が付くのは確実。

 この状況で、Haswellが製品として出た時、AMDがどこまで踏ん張れるか。
 いや、つかマジで踏み留まって貰わないと困る。
 ここで押し切られたら最後、VIA/CyrixのC3のように、ズルズルとPC市場から退出を迫られかねない。

 兎に角、「PC」の将来の為にも、x86の将来の為にも、AMDがこれからも一定以上のプレゼンスを持ち続けることを切に願う。
 いや、最低でも今以上のプレゼンスは絶対に必要だと思う、本当に。

 #Intelは独占市場では物凄いお値段付けてくるし。
  まぁ商売的観点からしたら当たり前なんだけど、さ。

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