SSDと部品屋とSeagateとSamsungと。

 少し前に「Samsungは頑張るんじゃないかね~」とか書いた途端にSeagateがSamsungのHDD部門を買収って・・・
 まぁ何だかなぁなんですが、これでまたHDD業界が「ちょっと面白い」ことになってきたので懲りもせずまた書いてみます。

 HDD事業自体の採算がどうだとか、規模と競争力とか、その辺りの当たり障りのない話は既にあちこちで散々出ているので放置するとして。もっと面白いのはこれで見えてきた「各社の将来戦略」だと思うのだけど。

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 Samsungは赤字減らし、Seagateはボリュームやアジア地域でのシェアを獲得・・・なんて某所で面白くもなんとも無い記事があったが、個人的にはHDD事業の移動については「おまけ」だと思っている。
 SeagateとSamsungの両者の真の狙いは、ずばり。

 Samsung製のSSDの拡販

 だというのが、自分の感想。

 ・まともな自社製SSDが作れず将来戦略が描けていなかったSeagate
 ・Intelを敵に回して戦えるだけの販売チャンネルとブランドが欲しかったSamsung

 の利害が一致した、そういうことだと思っている。

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 とはいえHDDについても結構面白いことが起こってしまったのであり。

 というのは、Seagateに限らず、WDも旧HGSTも、大手HDDメーカは何処も今まで「全部品の自社&系列内開発を原則優先」という体制をとってきていたのですよ。そしてSeagateは開発費をケチって技術開発でWDに突き放された、と。

 ところがここで、「原則として部品は社外調達」という体制でやってきていたSamsungを統合することに。
 こうなると、部品調達に関して「直近」と「将来」という二つの問題が出てくる。この問題をどうするかこそが、Seagateにとって会社の命運を将来にわたって決めかねない、極めて重要なお話。

 とはいえ、製造キャパシティを考えると直近としては部品を外部調達せざるを得ないので、一時的にせよ部品の外部調達率が跳ね上がるのは間違いない。
 また、今後数年というスパンではこの辺りは変えられないハズ。何故って、従来Samsungに部品を供給していた各社もそれなりに投資をしているワケだし、契約的にもそう簡単に「やっぱやめた」と言えるようにはなっていない筈なので(主として金額的に)。
 更に、幸か不幸か、現在のSeagateの自社内開発部門がWDと比べて立ち遅れているために、従来Samsungに供給されていた部品(主として昭和電工のプラッタとTDKのヘッド)が直近では対WD戦の武器になる、という事実が。

 さぁ、どうするSeagate。これからの選択肢は4つだ。

 1.あくまで自社開発生産にこだわり、研究開発投資を増額し、部品工場を拡張する
 2.あくまで自社開発生産にこだわり、研究開発投資を増額するが、部品工場は部品メーカーから買ってくる
 3.部品メーカーの製造部門と開発部門をセットで買収し、自社内に取り込む
 4.自社部門をコスト優先、外部調達を性能優先という風に、ポジションをズラして平行存続させる

 研究開発の効率という意味では4は厳しい。どうしても重複して無駄な部分が出てしまうので、それがコストに跳ね返る。
 とはいえ一種「保険」になるのもまた確かであり、全てが上手く回れば低コスト品を大量に供給することでWDからシェアを奪い返すきっかけが作れるかも知れない。

 幸い?Seagateは当分株式公開企業のままでいそうなので、この辺りの決断が実際になされれば、決算その他の公開情報から推測出来ると思われる。それぐらいデカい話だし。

 ということで、これから暫くのSeagateの挙動にはちょっと注目、かも知れない。

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 注目といえば、先日Seagateが出した「世界初の1TBプラッタHDDを開発」というプレスリリース。
 コレ、Samsungを買収した「外部部品の調達」の最初の成果、なんでしょうな。

 3プラッタで3TBということで、4プラッタ4TBにしないのは軸※の問題だと思われるが、これ普通に考えると自社開発でないことは明らか(自社技術では現在のところ667GBの量産がやっと)。
 なので、次世代Barracudaの構成は以下のようになると予想。

 ・3TB品についてはプラッタ外部依存、1TB×3枚。

  恐らく昭和電工プラッタに関してはこの1機種向けだけで供給数量が限界になってしまうのと、Seagate側の「ボリュームゾーンの製品で部品外部依存度を高めたくはない」という判断が働くだろうという想像。

 ・2TB品は漸く安定が見えてきた自社667GBプラッタ×3枚。

  漸く安定してきた667GBプラッタを大量生産することで、自社技術の開発継続、ライン構築コストの回収、ボリューム確保といった課題をクリアするだろう、という想像。
 ちなみにSeagateの667GBプラッタは未だにBarracuda LPだけで7200rpm品は出荷されていません、はい。3TBなXTは600GBプラッタだし。

 ・1.5TB品には自社500GBプラッタ×3枚。

 667GBが安定出来るなら750GBプラッタの生産も選別品扱いなら何とかなる筈だと思うし、2プラッタにすると単純に原価が下げられるのだが、数量が出せるかどうかとなると微妙な気がするので、まぁこの選択肢は無いかな、と。

 その点、500GBプラッタなら既にニアライン向にも採用している程実績があるし、ある意味現在のSeagateでは「安全パイ」ライン。単純原価を考えれば3プラッタはデメリットだが、生産量や品質等まで考えたら十分アリかと。
 更にSeagateは今までもこの「安全パイ」な選択をしてきた実績があるので、今回またこの選択が発動してもおかしくない。

 ※軸について
 3プラッタと4プラッタではプラッタ重量も軸長もだいぶ違うので、当然要求される精度も違うし、これはコストにも跳ね返るということ。
 逆に言うと、高密度プラッタで要求される高精度で且つ4プラッタ乗せられる軸は、未だ量産技術が確立していないか、コスト的に割が合わないか、のどちらかと推測出来る。

 ちなみに、WDが以前の4プラッタ品ではStableTracなんて名前の軸押さえを導入していた(WD製HDDの黒いフタのような部品のこと・・・過去形)のもこの精度絡みの話。
 勿論、これが5プラッタなんて言い出したら更に軸精度が要求されるワケで、そういう意味では5プラッタ品を惜しげもなく市場に投入してきているHGSTはこの辺りの精度出しには「手馴れている」とも言える。

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 さて、以上全てをひっくるめて、WD-HGSTの方も見てみましょうか。

 HGSTのEnterprise SSDってIntelと共同開発していたこと、覚えている人はどれぐらい居ますかね。
 またWDは過去にSSD屋を買収してもいます。組込系しかやっていなかった会社なので日本じゃほぼ無名でしたけど。

 まあそんなWDだが、メインストリームのSSDについては・・・という状況。製品としてはWD SiliconEdge Blueというラインを立ち上げてはいるものの、生産量的にも少ない上に、正直あまり「売る気」も見えない。

 ♯ちなみに中身はJMF612+128MB~512MB Cacheらしい。

 なので、もしSeagateが本気でSamsung製SSDを全世界で展開し始めたら、WDは相当厳しいポジションに追い込まれる可能性も否定は来ない。
 何しろ自社で持ってるSiliconSystems製コントローラをメインストリーム方向に展開しなかったということは、まあそれなりの理由がある筈で。
 もし(真っ先に想像される)コストがその理由だとすると、一式を全て自社で揃えて来るSamsung-Seagate連合と戦うのに相当厳しいことになりかねない。

 ・・・この際SandForceでも買収する?
 個人的には十分アリだと思うけど、問題はそもそも買収に応じてくれそうにないってことだろうな。

 ♯Indilinxは既にOCZに買収されちゃったしねぇ。
  HDDではHGSTの買収で完全全方向展開(低価格低性能~高価格高性能まで)で死角無しになったんだけど。

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 更にここまで全部ひっくるめて、東芝について考えてみたら。
 えっと・・・以前より更に手の打ち様がなくなったというか、ぶっちゃけ八方塞のような。

 いやほんとに、HDD事業を本気で続けるだけの理由ってどっかにあるのかしらん。
 ボリュームおよび利益の薄さが圧倒的なデスクトップ用HDDがラインナップに存在しない分、今のところ順当に利益が出ているようだが、Samsung-SeagateとWD-HGSTの圧倒的な物量作戦を相手に、これがどれだけ持ち堪えられるか。

 実際赤字になり始めたら、それでも維持するメリットってのが本気で何も思いつかない。
 しかも東芝は自社でコントローラもFlashも、ついでに生産設備まで持っている。ストレージ市場での存在感という意味では、HDDがダメになったらSSDを前面に出して戦うことも出来る。

 ・・・やっぱり、HDD事業にこだわる必要性が見当たらない。

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 とまぁ、今回もダラダラと駄文を書いてみましたが、いかがでしょ。

 実際に1TBプラッタが7200rpmで回るドライブが出たら、連続転送速度の最外周値では200MB/Sの大台に乗せて来る可能性もそれなりにあるワケで、本当にそうなったらちょっとしたモノかも。

 ♯HGSTの600GBプラッタが7200rpmで160MB/S近く出せるので、プラッタ密度1.6倍をトラック幅と直線記録密度で平方根して1.26倍。160×1.26=201.6・・・ギリギリ何とかなるかも?

 まあそんなプラッタ容量競争もアリだが、個人的には4TB HDDがいつ出るかにも興味がありますな。
 以前、旧HGSTが800GBプラッタ5枚の試作品を完成させている、というウワサが出たこともあるので、「非1TBプラッタ」のままWD-HGSTが4TBを先行発表する可能性も十分あると思いますよ、えぇ。

 まあ、兎にも角にも。
 事実上二社の「寡占状態」になったHDD業界、明日はどっちだ。

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