静かで大容量で結構クセモノ、或いは、ST8000AS0002 First Impression。

 ということで、アキバにモノが来たので買ってきました。
 SMRな8TB、SeagateのArchive V2。
 自分的には初めてのSMRなので、ちょっと触ってみた感じでFirst Impressionを。

 まずは、取り敢えずの3行まとめ。

 ・静かで遅い
 ・挙動がキモい
 ・信頼性は未知数

 えと、こんな感じか?
 以下、もう少し細かく。

 1◇重くて静かで。

 実際に手にした最初の印象は「重い」。
 ここのところSeagateのコンシューマ向けでは軽量化=コストダウンを図ったものが多かっただけに、手持ち感がだいぶ違う。
 まぁそりゃそうだよね、プラッタ6枚も入っていれば。

 そして通電してみると、6枚とは思えない静かさ、そして「ドライブ自体の振動の少なさ」に感心することに。
 まぁ高密度プラッタにとっては振動は大敵なので頑張って調整して抑え込んでいるのだろうが、ここまで騒音と振動が低いドライブは久しぶり。
 特に振動という観点ではWD REDに圧勝という印象。通常時の騒音でも多分こちらの方が優秀だと思われ。

 #但しランダムアクセス時に時々大きめのヘッド動作音が聞こえてくる。ある意味Seagateの伝統芸のようなこの挙動が出た時は、明らかにWD REDより騒がしいので。

 2◇既にバランス崩壊済み。

 次に、8TBもあれば誰もが気になる転送速度。
 8TBを5900rpmで回しているだけあり、全セクタのRead/Writeに14時間半程度かかりました、はい。

 ・・・まぁなるべくしてなったとしか言いようが無いのだが、コンシューマー向けHDDの全周チェック所用時間としては最長記録では。

 ちなみに、シーケンシャルのゼロクリアではReadとWriteでは所要時間差は誤差程度。
 まぁゼロクリアなんてワンパターンなタスクはキャッシュが上手く捌いているのでしょう。

 3◇隠しきれない暴れ馬。

 さて、シーケンシャルでは殆ど感じさせなかった「SMRっぽさ」だが、ランダムアクセスを始めた途端にそいつは馬脚を現したのであり。
 従来型HDDと比べるとどうにも「キモチワルイ」動き、敢えて書くなら以下のような感じ。

 A.単純なRead

  密度高くともやっぱり5900rpm、やや遅い。
  特にランダムアクセスに「重さ」を感じるのはヘッドの位置合わせにでも時間がかかっているのかね。

 B.単純なWrite

  (基板上の半導体)キャッシュと(プラッタ上の)キャッシュエリアをコントローラがアグレッシブに振り回しているようで、本当に少容量だと(OSから見て)一瞬で書き込みが終わってしまう。

  #HDTuneで測ると「Writeの平均アクセスタイム:0.5ms」なんてとんでもない数字が出まっせ。

  また、HDD上のキャッシュエリアに収まる程度の容量だとシーケンシャルでもランダムでもほぼ同一速度で書き込めてしまう。
  但しこの書き込みも、ほぼ等速が続く従来のHDDと違い、書き込み速度が激しく上下する。
  とはいえこの程度なら普通にOS上から使用している分にはほぼ気にならない筈。

  #大袈裟に言うと「小刻みに息継ぎしているような」感覚。

 D.ReadとWriteの組み合わせ

  一番キモチワルイというかSMRらしさが炸裂するのが、この「小刻みなReadとWriteが連続する」アクセス。
  一言でまとめると「非常に遅い、アクセスがいちいち引っかかる」状況になります、はい。

  実際、こんな状況ではSMRなHDDのヘッドは「Read先」「キャッシュエリア」「SMRで上書きされてしまうトラック」「Write先」という4箇所を股にかけて動作している筈で、重くなるのは当然といえば当然なのだが。
  これが従来型HDDならヘッドは「Read先」「Write先」だけを往復していれば済んだ筈で、この差は歴然。

  そしてこのようなアクセスパターン、実は普段から珍しくもない。
  「OS起動領域」は当然として、「データ領域」でも例えばDB等は正にコレなので、実に普段使いには向いていないということですな。

 ◇

 以上、つらつらとこの「初物」について書いてみましたよ。

 個人的には「まぁ初物の割には挙動はまともかな」という印象がある一方で、「実際の書込タイミングががOS上の書込タイミングと乖離している上に処理状況がOSから見えない」キモチ悪さは拭いようがないのもまた事実。
 また、これだけの高密度プラッタだが、品質については全くの未知数の状態。評価が見えてくるまで最低1年はかかる。

 ・・・ということ、で。
 面白い商品ではあるが、癖も強い上未知数な部分も多いことをお忘れ無く、と。

 P.S.
 これがホントに最後、一点だけ。

 この製品に関して「エンタープライズ品並の品質管理」というSeagateの広報の台詞を肯定的に評価している人が多いようだが、この台詞をひっくり返すと、要するに

 「エンタープライズ品並の品質管理をしないとそもそも製品として最低限のレベルが保てない」

 ということですね。さすがにこの記録密度を出すのはまだ簡単ではないのでしょうな。

 実際、エンタープライズに直ちに持ち込めるだけの品質と自信があるならば、HGST対抗のニアライン向けラベルを貼って出荷すれば良いのですよ。
 Seagateのラインナップ的にも空きポジションだし、単価も高く出来るし、(Seagate的には)良いことづくめ。

 にも関わらず、何故敢えて、単価の安いコンシューマやライトユースNAS向けのラインにこの製品を放り込んできたのか。
 その辺りを考えてみるのも、面白いんじゃないですかね。

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何故SMRだとHDD容量が増やせるの?

 さて、新年早々Seagateがコーポレートロゴ変えて来たり、東芝が2.5’で750Gプラッタ4枚の3TBを発表したりと、HDD周りは相変わらず微速前進といった状況ですが。

 またしても訊かれたので以下略なネタ。
 これ、一言で説明するのは結構難しいんですが、順序追って説明してみますか。

 ◇

 まず、従来と同じようにプラッタ密度を上げようとすると、引っかかる問題が2つあるんですな。

 1. 書き込みヘッドが小さくなり過ぎて、書き込みに必要な強い磁気が出せない。
 2. 小さいヘッドの弱い磁力で書き込めるようにプラッタを作ると、今度はプラッタの磁気保持力が無くなってしまう。

 簡単に書き込める素材は、簡単にデータが消えてしまうワケです、磁気メディアは。
 逆に言うと、簡単にデータが消えない素材には、簡単に書き込めない。

 この矛盾を解決する手法として、SMRが開発されたワケです。

 1. 書き込みヘッドは強力な磁力を出す為に大きくしよう。
 2. 強力な磁力で書き込む前提のプラッタだから、磁気保持力はそれなりに強く出来るよね。

 これだけでは容量は増やせない。なので、こうする。

 3. 磁気保持力が強いならば、高密度に書き込んでも大丈夫だよね。
 4. ヘッドが大きいから一部カブっていても、残りの部分が読めるから大丈夫だよね。
 5. 古いデータにカブるとこに書き込む時は、古いデータが壊れないように辻褄合わせしておけばいいよね。

 大雑把に言うと、こうしてSMR HDDが生まれたワケです。

 ◇

 ということで、SMRのポイントは実は「重ね書きで記録トラック幅が減る」ことではなく、「(相対的に)大きいヘッドを使って強力な磁力で書き込める」ことなんですな。
 そしてこの前提があれば、従来の垂直磁気記録の限界と言われている1.33TBプラッタを超える密度で記録が出来る、というワケなのですよ。

 そして、SMR用の特性を持つプラッタとヘッドを使って今のところ製品化が見えているのが1.66TBプラッタ、つまりHDDとしては10TB品なワケです。
 将来の話をすると、プラッタだと2.5TB~3TB、HDD単体では15~18TB辺りまではメインストリームはSMRで何とか引っ張ろうとしているのが現在のHDD業界なんですな。

 ・・・とまぁ、こんな感じで説明になりましたね。

 ♯その上は熱アシストですな。

 P.S.
 にしても東芝の2.5′ 750GBプラッタ、同一密度で3.5’を作ると1.5TB程度になるし、恐らくプラッタ記録密度としては発表時点で世界最高の筈。何でプレスリリースに書いてないんだろ。
 つか単なる垂直磁気記録ではもうこれがいよいよ密度限界なんじゃ・・・。

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