熱か磁界か、競争って大事だねという話。

 さて、WDが「HAMRはやっぱダメ、ウチはMAMRで行くわ」という発表会をやったかと思ったら、数日後にはSeagateがOfficial Blogで「あちらと違ってウチはHAMRは商品投入目前だよ」とか出てきた、なんてことが起こりまして。
 個人的な感想は「そういうのはサッサと物出してから言えや」なのだが、そいえば最近HDDネタやっていなかったよなぁ、ということで。これは久々にHDDネタやってみますか、というエントリです。SSDネタは前にやったし。

 ◇

 まずは、例の発表会とBlogエントリから読み取れるネタでも。

 一つは、WDはMAMRに本格的に舵を切ったということ。未だWD傘下ではないHGST時代に、HAMRの商品化に向けての懸案は媒体の耐久性だという話を聞いたことがあるのだが、WDというかHGSTは結局この部分を現時点では埋めきれていない、という解釈ですなコレは。
 なので、そもそもの物理現象の発見からして新しく、技術的には最先端いうか、特にヘッド部分については現在進行形で開発&評価中ではあるものの、理論的にはHAMRに比べて媒体へのストレスが少ないので、WDとしては信頼性を確保し易いと踏んだんでしょうな。
 逆に言うと、MAMRに投資すると決めた分、HAMRへの投資は削減・・・というか、実質開発中断したんじゃないかねコレは。WDのofficialなblogを見ていると複数のエントリでHAMRのことに触れているのだが、どれもかなり否定的なんで。開発続けているならここまでボロクソに言わないと思うんだが。

 もう一つは、SeagateはHAMR商品化するしかないトコまで来ているということ。具体的な数字を挙げたりWDが指摘した点にいちいち反論している辺り、ネットスラングを使えば「顔真っ赤にして」という雰囲気満々だが、逆に言うとこういう数字を出しても支障ないというレベルにはモノが仕上がってきているという意味でもある。・・・というか、ここで出てきた「HAMRドライブは4万台以上がテストドライブ中」とか、Seagateが公式で具体的な数字に言及するのって初めてだよね?
 逆に言うと、SeagateはMAMRは基本見送りというスタンスなんでしょうな。現時点ではHAMRとMAMRは同一レベルの記録密度しか実現出来ないと言われていて、仮に媒体へのストレスというHAMR最大の問題に解決の目途が立っているならば、今更MAMRのヘッド開発に投資する意味は正直薄い。
 ・・・とはいえ「年率30%なんて伸び率を取り戻す」なんてのはまぁ相変わらず「デカい口叩いてる」レベルだろうが。

 で、この2社の選択なのだが・・・いやぁ、こう言っちゃナンだけど、会社の色が良く出てますなぁ、としか。
 というのは、現時点では

 ・MAMR=「原理的に低コストに出来る」「記録密度の大幅向上には今一歩」
 ・HAMR=「原理的にコスト高は避けられない」「記録密度の大幅向上に目途がついてる」

 安売りが得意なWD、エンタープライズに強いSeagate、と並べると納得出来るのではないかと。

 ・・・つかね、でもね。どうでもいいんだけどさ。
 いい加減空中戦やってないで現物出せや、どっちとも。

 ◇

 とまぁこんな感じで。そう言いつつでは現在の状況はどうかといいますと。

 まず前提として、よく従来型PMRの限界と言われる「1Tbit/inch2」をプラッタ容量にするとおおよそ2.5インチで750GB、3.5インチで1.5TB。
 一方で、従来型SMRの限界というのも言われていて、これがおおよそ「1.3Tbit/inch2」。これ、2.5インチで1TB、3.5インチで2TB。
 この数字を横目で見ながら、現実に出ている製品を見てみましょうか。

 SeagateはSMR推進に御執心。最近アキバでよく安売り対象になっている2TBプラッタの4TBモデルを皮切りに、メインライン(Barracudaシリーズ)の大容量モデルは全てSMR化するようで、現在の非SMRモデルは生産用部材の在庫が終了次第生産完了する模様。
 ・・・なのだけど、これって要するにもう、従来型SMRの限界値に来ているんですよ。Seagateは従来型の非ヘリウムドライブを出来るだけ引っ張る方針のようなので、コレを6プラッタ詰めた12TBもそのうち出てると思われるが、非ヘリウムではホントにここが限界。つまり、SeagateはもうHAMR製品化待ったなしなんですな。

 ♯最新世代のSMRドライブ、初代SMRと比べてキャッシュの取り回しが物凄く良くなってて、一般人がおウチPCのWin10でライトに使う限りではかなり遜色ないレベルにまで来てるんですよ。これは正直凄い。
 但し、ちょっとヘビーに使うとすぐ息切れするのと、キャッシュの挙動がWin10に最適化されているようで、それ以外だと性能ガクっと落ちるのだけど。

 WDはというと、ヘリウムドライブの大量生産で量産効果を出すことに夢中。その代わりSMRは(HGSTの特定用途向けエンタープライズ品以外では)基本スルー。つまり現時点ではWDはコンシューマー向けのSMR用ヘッダを開発していないということですな。
 一方で8枚プラッタのヘリウムドライブでもPMRだと12TBまでしか実現出来ていないのは、これまた正に従来型PMRの限界に達しているんですな。つまりこちらもMAMR製品化待ったなし。

 最後にオチ的なことになったのが東芝。「従来技術の小手先改良が得意」という体質がまさかここまでとは・・・誰か想像していましたかね、エアで7枚プラッタを実現してくるなんて。ってか、東芝はヘリウム開発が遅れているか、全くやっていないか、どっちなんでしょうな。
 まあ兎に角大きな新技術の導入には保守的とか遅れてるのが東芝なので。その割には2.5インチの高密度プラッタの開発でトップを走っていた時期もあるとかいう辺りも、前述の体質を物語るモノですな。
 とはいえ10TBの7枚プラッタは1プラッタあたり1.43TB、つまりこれももう従来型PMR記録の限界値ギリギリなのです。

 ◇

 以上、取り敢えず現状つらつら書いてみましたが。まとめると。

 「従来型ではもう無理ぽ」
 「次世代では会社によって技術方向が分かれる可能性大」
 「つかその次世代っていい加減さっさとモノ出せや」

 という感じですかね。

 それでは、いつも通りとっちらかった感じで、本日はここまでで。

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突然だけど必要になったので。

3TB以下、7200rpm限定、非SMR限定、512でのLBAサイズを調べてみた。

—————-
東芝 DT01シリーズ(512e)
DT01ACA050 976,773,168
DT01ACA100 1,953,525,168
DT01ACA200 3,907,029,168
DT01ACA300 5,860,533,168

東芝 MD04シリーズ(512e)
全モデル非公開

東芝 MG04シリーズ(512e・512Native両方あり)
全モデル非公開

Seagate Barracudaシリーズ(512e)「Guaranteed Sectors」
ST500DM009 976,773,168
ST1000DM010 1,953,525,168
ST2000DM006 3,907,029,168
ST3000DM008 5,860,533,168

Seagate Barracuda Pro 「Guaranteed Sectors」
ST2000DM009 3,907,029,168 ※512B Native

Seagate IronWolf Pro 「Guaranteed Sectors」
ST2000NE0025 3,907,029,168 ※512B Native

WD・HGST(512e・512Native 両方あり)
全モデル非公開
—————-

こんな感じ。
にしても思ったより数字を出していないブツの多いこと。そしてLBA数がカッチリと固定されているのはこの中では一番の古参、DT01だけという有様・・・あひゃあ。

あ、Seagateは「保証セクタ数」であって、実ディスクのセクタ数が必ずコレとは保証していないのよね・・・まぁ実際は揃っている筈・・・だと思う・・・けど。多ければおトクという発想もあるかかも知れないが、用途によってはセクタ数って完全に揃っていないと困るんですよコレ。具体的にはRAID組む時、或いはRAIDのHDDが故障したので交換する時。
まぁそんなのデスクトップ用HDDで期待するなという言い方もとても正しいとは思うが、Seagateは5年保証のニアラインでも「保証セクタ数」でしか出していない・・・う~ん。

ちなみにWDとHGSTは非公開なので、ラベルに嘘書いていないレベルから逆算すると、最悪3TBは5,859,375,000セクタあれば嘘ではないことになる(3TB=3,000,000,000,000Byte計算で)。

P.S.
記憶が正しければ日立時代のHGSTはデータシートにセクタ数を乗せていたような。
というか、HGST傘下になってデータシート内容がどんどん削られている気が。

とまぁ、本日はここまで。

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カタログスペックは時に結構事実だったりする。

 訊かれたので答えるネタ。
 9月末にBackBlazeが恒例のHDDぶっ壊れ数レポートを出していたのだが、どうよという話。

 まぁいろんな人がいろんなコトを言っているので、総論的なことは置いといて。以下、個人的感想だけ。

 ◇

 ・HGSTは相変わらずの鉄板ぶり。電源にさえ気をつければ長持ちするのは間違いない。
  HGSTといえば東芝印DT01ACA300=Deskstar 7K3000.Bもかなりいい感じ。

 ・ST3000DM001、SAMSUNG血統品は壊れ過ぎ。当方の印象ではデスクトップ用途ではここまで壊れてない。
  とはいえこのドライブについては「メカがヤワ」「設計寿命4800時間は伊達じゃない」と感じることが最近ぽつぽつあるので、単純に(設計寿命に対する)長時間駆動と振動でメカがヘタって壊れているのではと推測。プラッタの方に問題があるとは思えない。

 ・ST33000651AS、製品の位置づけ的にはもう少し踏ん張って欲しかったが、こんなものか。

 ・駄目な方で伝説のST31500341AS、伝説持ちの割には意外と踏ん張ってる。

 ・WD RED 3TB壊れ過ぎ。つか所詮はGreenの選別品、やっぱりその程度だったということかね。

 ◇

 ま、ざっくりこんな感じですかね。
 ネタ的に古いし出涸らしだし、なのであっさり風味で。

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HDDの二極分化は進む。

 個人的には「そうきたか」という展開。
 WD Greenの選別品=WD REDに続いて、Barracudaの選別品がConstellation CSとして登場、アキバにもお目見えしたとのこと。
 まぁ元々Barracuda 7200の選別品をBarracuda ESとして売っていたので、原点はこちらというのが正しいのかな。

 にしても、今時の仮にも「エンタープライズ」品でAFRが1%超ってのは正直どうかと思うが、まあ「使い捨てディスク」ってことなのでしょう。
 仕様的にもターゲット的にもそんな感じだし、保証も3年しか無いし。
 Samsungの血統がいよいよ「エンタープライズ」を名乗ってしまいますよ、と。

 ちなみに、同時発表されたConstellation ES.3は写真見るまでもなくスペック的に「Seagateの血統」。
 ということで、これで判明したのは、SeagateもWDもこれからは同一の「2血統戦略」とも言える戦略をとるということ。

 ・WD → 廉価品=従来WD、高価格帯=従来HGST
 ・Seagate → 廉価品=従来Samsung、高価格帯=従来Seagate

 こう並べてみると、割と理に叶っているというか。

 #つか東芝どうするんだ。こうなると価格で対抗しようがないんでないのコレ。

 しかしまぁ・・・このSSD全盛期、IO絶対性能では勝ちようがないHDDには「信頼性」しかウリが作れないと思うのだが(磁気記録の歴史と実績ナメるな)、現在の販売価格ではその「信頼性」も作れない、というのが正直なトコなんだろうな、と。
 「アキバで一番売れている」HDDと高価格なエンタープライズHDDとの、絶対的な信頼性と価格の差を見るというか実感するにつけて、何だかなぁと思ってしまう管理人でしたとさ。

 #なので管理人のPCはノート以外全てRAID-1。これでもエンタープライズHDDの1台よりは安いし。

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WD製品の低速病について真面目に語ってみる(但し独自研究)。

 Wikipediaだとタグが貼られそうだけど。
 取り敢えず(本人の意志とはあまり関係なく)HDDの数は触っているので、経験則や実際に測ったみた結果等を書いてみる。

 その1◇低速病とは。

 低速病とは、プラッタ記録品質が損なわれうる事態が発生したり、あるいは既に損なわれた場合に、ソレでも記録と再生を続ける為にファームによって移行する「緊急事態」 である。

 但し、以下のようなケースも見られる。

 ・明らかに記録品質が劣化しているのに「低速病」が発動しないケース。
  この状態では短期間のうちにその個体は使用不能となる。

 ・誤動作で「低速病」が発動してしまったように見受けられるケース。
  この状態では後述するタイミングで「回復」出来れば、その後は通常使用可能である。

 その2◇低速病の症状とは。

 低速病には、少なくとも以下の2つの「段階」がある。

 Level 1:書き込み速度が劣化する。正常時の半分、又はそれ以下となる。
 Level 2:読み書き両方の速度が劣化し、2MB/S程度になる。

 それぞれを仮にLevel 1・2と呼ぶ。
 Level 1を経てからLevel 2に至るケース、突然Level 2に至るケース、両方が見られる。

 また、以下のような状況が発生するとファームウェア的にリセットがかかるようで、一時的に低速病が「回復」することがある。
 但し本質的な解決でないため、プラッタ劣化が発生している場合遠くない時間のうちに再び発動する。

 ・ディスクの全消去を行った場合
 ・I/Fを変えた場合(Intel ICHからAMD SBへの接続変更、USB 3.0変換での外付け化等)
 ・電源断のまま長時間放置した場合
 ・ファーム設定を変更するコマンドを外部から入力した場合(キャッシュ制御の有無、騒音制御等)

 その3◇低速病の判定は。

 Level 2の状態では通常使用で明らかな不具合が発生するた詳細は記載しない。
 Read/Writeの極端な速度低下、ATAコマンド応答遅延が発生する。

 Level 1の状態では、書き込み速度を監視することで判定可能である。
 以下はLevel 1の低速病を発症しているHDDに対し、HDDScanで全面書き込みベンチマークを行ったグラフである。
 グラフを見れば発症状況は一目瞭然であるが、一回もエラーは発生しておらず、時間はかかるものの正常完了となる。
 (書込速度の目盛は実際より大幅に速いがこれはHDDScanの誤差によるもの)

WD30EZRX write benchmark with damaged platter

 比較対象として、以下はある程度使用時間の経過した同形式HDDの、正常な状態での全面書き込みベンチマークのグラフである。
 ※購入直後の状態ではもっとなだらかでブレ幅の少ないグラフとなる。

WD30EZRX write benchmark with normal platter

 ※注:
 HDDScanは非常に環境の影響を受け易いソフトウェアのため、この方法で検証する際は他のソフトウェアを動作させない・物理メモリを十分に確保する・負荷の高い常駐ものを止める、等の配慮が必要である。
 また、環境を整備してあっても時折妙な挙動することがあるので(グラフのや数字が非常に不自然になるので数%進めば簡単に判別可能)、その際は一度HDDScanを終了し、システムの電源断→再投入してリトライすると良い。HDDScan.exeの再起動だけでは同一症状が再発することがある。

 その3◇低速病の対処は。

 要するに劣化なので、RMAで交換。

 ◇

 ・・・とまぁ、こんな感じで。
 言っちゃ悪いが、要するにWD Greenの低品質の象徴だよね、というお話でしたとさ。

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